インターネット通信販売サイトの広告・表示規制
公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)が公表した2010年度の通信販売総売上高は4兆6,700億円であり、前年度比8.4%増の伸び率を記録しています。
(これとは逆に、訪問販売の総売上高は、日本訪問販売協会の同時期の公表値で1兆9,041億円であり、前年度比-4.7%の減少となっています。)
通信販売の高成長には、テレビショッピング等の好調さが目立ちますが、インターネット通信販売も確実にシェアを伸ばしています。
インターネット通販のメリットの一つには、新規の販売サイトの参入障壁が低く、売り手側の競争が促進されているという点が挙げられます。
僕も書類作成やコンサルティング・サービスの通販サイトを展開していますが、名も無き一個人が曲がりなりにも全国対応の事業を行えるのは、今までのインターネット環境が黎明期であり競争の余地が大きかったことの恩恵です。
しかし、事業者の新規参入の容易さや競争の激化には、憂慮すべき現象も起きています。
例えば、商取引に不慣れな個人でも通販サイトを運営できることから、顧客対応の質が悪かったり、知らずに法令違反をしてしまったりするなどのトラブルが起こりやすくなっています。
また、悪質業者にとっても参入がしやすいわけですから、悪質な通販サイトも多く存在します。
更に事業者間の競争が激化していることと、行政による監視や取締りが緩いことが重なり、通販サイトの広告表現や表示についての法令による規制が軽視されているように感じます。
具体的には、国民生活センターが公表した全国の消費生活センターへの苦情・相談件数は、インターネット通販に関しては2010年度は155,914件にも上っています。(前年度比18.4%増)
東京都の生活文化局消費生活部取引指導課では、景品表示法に抵触する広告や表示を行っていた事業者に対して改善指導を行っていますが、2011年度にはその指導件数が582件に上っています。(前年度比97.2%)
このように通販サイトへの苦情や法令違反の広告が増加している現状を考慮すると、やはり取り締まりや規制強化は必要といえるでしょう。
本来であれば、成長市場のブレーキにもなる規制強化は避けたいところですが、消費者被害を放置するわけにはいかず、バランスを考えた規制が求められます。
それでは、通販サイトの広告や表示を規制する景品表示法と特定商取引法には、どのようなルールが定められているのでしょうか?
景品表示法では、「内容について、実際のものよりも、又は競争事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示」(4条1項1号の優良誤認)と、「取引条件について、実際のものよりも、又は競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(4条1項2号の有利誤認)が不当表示にあたるとされ、こうした広告表示は禁止されています。
これに違反した場合は、消費者庁が行為差し止めについて必要な措置を命令することができます(6条1項)。
特定商取引法では、広告の表示義務(11条)と誇大広告の禁止(12条)が定められています。
広告の表示義務(サイトに表示が義務付けられている事項)
1. 販売価格
2. 送料
3. 販売価格・送料等以外に負担すべき内容及び金銭
4. 代金の支払時期
5. 代金の支払方法
6. 商品の引渡時期
7. 返品特約に関する事項
8. 事業者の氏名又は名称
9. 事業者の住所
10. 事業者の電話番号
11. 代表者氏名又は責任者氏名
12. ソフトウェアに係る取引の場合のソフトウェアの動作環境
誇大広告については、景品表示法と同様に「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」が禁止されています。
これらの特定商取引法の表示規定に違反した場合は、業務停止などの行政処分の対象になります(15条)。
このように景品表示法や特定商取引法の表示規制に抵触した事業者には行政処分が下されるのですが、現行法ではこの表示規制違反を理由とした契約解除を消費者に認めてはいません。
それでは、どのような広告が不当表示として行政指導を受けたのか、東京都の事例をいくつか引用します。
景品表示法の不当表示とされた広告の事例(東京都)
<優良誤認の例>
防災等商品(地震探知機)
•世界最強☆米国レスキュー隊が絶賛!
•アメリカ国際レスキューチームが推奨するスグレモノ
衣料品(腹巻)
•ゲルマニウムでジワジワ燃やしてスリムな体を目指しましょう!ポッコリお腹やビールっ腹に!
<有利誤認の例>
浄水器(放射性物質対策)
•通常価格315,000円のところ198,000円の安心価格(工事費込み、税込)
•先着50名様限定(残り:9名)
こうして不当表示の具体例を見ると、それだけでは特に不審というわけではなく、事業者サイドからすれば販売促進のためによく使う表現であるともいえます。
すると何が「優良誤認」にあたるのかといえば、広告表現の内容に科学的裏づけが示されていないという点につきます。
同様に「有利誤認」についても、通常価格と販売価格を比較する二重価格自体には問題ありませんが、その通常価格で販売された実績を示すことが出来なければ不当表示という判断になってしまいます。
先着販売数についても、その応募数や残数が虚偽であれば不当表示になります。残り数量が少なく見せかけて、消費者の購買心理をかきたてるような販売手法は不当ということです。
このように、販売促進の目的のために、広告文に科学的裏づけの無いことを記載したり、実際と異なる数値を掲示することは違法であり、行政処分の対象になってしまうのです。
こうした広告や表示に関する行政規制が過度に進むのは、事業者にとって不利益となるばかりでなく、インターネット市場の成長に冷や水をかけ、結果として消費者にとっても不便を強いるものです。
しかし、前述のようにインターネット通販にはトラブルが多発している現状では、一定の規制や取締りの強化も必要です。
できることなら、行政規制や取締りは緩やかにして、事業者のコンプライアンス意識を高めることでトラブルを減少させ、インターネット通販市場の成長性を適正に維持させたいところです。
クイズ形式で学ぶクーリングオフ制度
クーリングオフ制度は、原則論の他に例外が多くて、全容を覚えるにはかなりの労力を要します。
僕が講演や研修の講師をする場合も、この法律構成を語りだすと居眠り者が続出してしまうことになってしまいます。(笑)
せっかくの講演ですから、居眠りタイムにしてしまうのではなく、皆さんに興味を持って頂けるお話にしようといろいろと試行錯誤をしました。
そこで、契約学習ネットワークや消費生活相談員としての講演の際には、クイズ形式でクーリングオフの問題を出題しています。
インターネットショップや訪問販売での買い物など、身近な例でクーリングオフが出来るか出来ないかの二択問題を提示して、聴講者の皆さんに考えてもらうようにしています。
すると、「あの契約はクーリングオフできるのに、この契約は出来ないのはナゼ?」という疑問が頭の中を駆け巡るようになります。
それに対して解説をして、該当法律の目的や背景などにも言及しています。
そのクイズの手直しをして、消費者問題サイトのコンテンツに加えました。
簡単なようで意外と奥深いクーリングオフ制度について、理解して頂くきっかけになれば幸いです。
サクラサイト商法の新たな手口
出会い系サイトで出会ったメール交換の相手(いわゆるサクラ)に誘導されて、出会い系サイトのポイントを継続的に購入し、多額のお金を使ってしまうという問題が起きています。
こうしたサクラを利用した出会い系サイトのトラブルは以前からありましたが、ほんの数年前までは「騙される消費者も悪い」ということで片付けられてしまうことも多かったように思います。
確かに常識で判断すればありえないメールの内容を信じてしまった消費者にも落ち度はあり、しかもサクラ行為とサイトの関連性を証明して詐欺取消を主張するにはかなりハードルが高く、裁判で争うには難しい問題がありました。
そのため出会い系サイトのトラブルについて積極的に対応する弁護士は少数でした。
しかし、こうしたサクラ行為の疑義のある出会い系サイトによる消費者被害が多発し、その個別の被害額も数百万円に達することが珍しくないような事態になると、そのような出会い系サイトの悪質性が認識されるようになりました。
各地の消費生活センターや弁護士の取り組みにより、悪質な出会い系サイトについてはクレジット会社も加盟店管理責任から返金に応じることが増えてきました。
また、各地に出会い系サイト被害についての弁護団も結成されるようになり、出会い系サイト業者の口座凍結や裁判も頻繁に行われるようになりました。
2012年8月8日のさいたま地裁越谷支部の判決では、出会い系サイト業者のサクラ行為を詐欺的と認め、またサイト利用料も暴利であると認めました。
この判例が出てからは、出会い系サイトの詐欺的行為や高すぎる利用料が暴利行為(公序良俗違反)と認識されるようになり、返金請求や裁判が増えています。
出会い系サイトのサクラ行為は、以前のような無法状態ではなく、裁判まで視野に入れれば被害回復の可能性が見通せるようになってきました。
こうした流れになると出会い系サイトでは荒稼ぎするのが難しくなり、悪質業者は次のターゲットを探しているようです。
国民生活センターが2012年7月26日に公表した事例では、下記の3つの手口が指摘されています。
【事例1】
コミュニケーションアプリからの誘導
【事例2】
チーム制ポイント購入対戦ゲームへの招待
【事例3】
知らないうちに自動更新で月額利用料の請求
スマートフォンのコミュニケーションアプリ(LINEの無登録アプリなど)から対戦ゲームの勧誘を行い、射幸性を煽って多額の課金をさせるなど、ソーシャルゲームなどのブームを取り入れた手口が現れているようです。
悪質商法の手口というのは、法規制や取締りとのイタチごっこという側面があり、古い手口が収束に向かえば、新しい手口が現れるという歴史を繰り返しています。
今後はスマートフォンの機能を悪用した手口が氾濫することが予想されるので、こうしたコミュニケーション・ツールの適正利用法についても啓発が必要になるでしょう。
消費者問題についてのブログを開設しました
遠山行政書士事務所では、2003年の開業より消費者契約に関する書類作成やコンサルティングに応じてきました。
インターネットを活用して、WEBサイトで特定商取引法などの情報提供を行い、契約書作成やクーリングオフ代行などを承っております。
消費者と事業者の両方からご相談を頂く機会があり、どちらもが納得できる適正取引のあり方を模索してきました。
そんな消費者契約に関する話題を本ブログでは書き綴ってきます。