ネット営業の遠山行政書士事務所

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情報財の取引等に関する論点

契約トラブルを無くして顧客満足度の向上を

経済産業省が発行する 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の 「情報財の取引等に関する論点」 についての要約を以下に掲載します。

ライセンス契約の成立とユーザーの返品等の可否

【論点】
媒体型のパッケージ・ソフトウェアを販売店から購入する場合、代金支払い後に初めてライセンス契約内容を見ることが可能となることが多く、ライセンス契約内容に同意できない場合に返品・返金ができないかが問題となっている。その際、(1)シュリンクラップ契約又は(2)クリックオン契約のいずれかの方法によってライセンス契約の締結が求められることが多いが、果たしてどのような場合に返品・返金が可能か?

DVD-ROM等の媒体で提供されるパッケージ・ソフトウェアを販売店経由で流通させる場合には、(a)情報財の複製物の売買契約と解されるケースと(b)販売店がユーザーに対してライセンス契約を締結することができる地位及び媒体等の有体物を引き渡すことを内容とする契約(提供契約)のケースがあります。
前者の場合には、ライセンス契約は存在せず、ユーザーは著作権法の範囲内で該当ソフトウェアを自由に使用することができます。この場合の返品については民法の定めに従うことになります。(契約解除には債務不履行や不法行為などの理由が必要です。)
後者の場合には、ユーザーは販売店との間で提供契約を締結し、次に製品開発をしたベンダーとの間でソフトウェアの使用を許諾するライセンス契約を締結するという2つの契約を締結することになります。つまり、ユーザーは返品等についてもライセンス契約の規定に拘束されることになります。

この提供契約型のライセンス契約では、この契約への合意を得る手続として、シュリンクラップ契約とクリックオン契約の手法がよく用いられています。

(1)シュリンクラップ契約
ユーザーが媒体の封(フィルムラップやシール等)の開封の前にライセンス契約の内容を確認し、契約締結の意思をもって媒体の封を開封した時点で、ライセンス契約が成立するとされ、開封以後にはライセンス契約への不同意を根拠とした返品は認められません。

(2)クリックオン契約
ユーザーがソフトウェアのインストール時に「(ライセンス契約に)同意する」というボタンをクリックする以前に、画面上に表示されたライセンス契約の内容を認識し、契約締結の意思をもってクリックした時点でライセンス契約が成立したとされ、以後はライセンス契約への不同意を根拠とした返品は認められません。

ライセンス契約の内容が、シュリンクラップ契約の場合は開封前に、クリックオン契約の場合はインストール前に、わかりやすく表示されてユーザーが確認できるようになっている場合には、開封や同意ボタンをクリックした時点で契約成立となり、以後はユーザーはライセンス契約の規定の拘束を受けることになります。この契約成立後には返品や返金はできないものとされます。
しかし、ライセンス契約の内容が、開封前に確認できない場合(シュリンクラップ契約)や、同意ボタンのクリック後に初めてユーザーが契約内容を確認できるような場合(クリックオン契約)は、ユーザーはライセンス契約への同意をしていないと解され、事後的に契約内容の不同意を理由とした返品や返金の問題が生じる可能性があります。

当事者による契約締結行為が存在しないライセンス契約の成立

【論点】
システム会社がソフトウェアをハードウェアにインストールしてユーザー会社に販売する際、ユーザー会社が自らソフトウェアの使用許諾契約を締結する行為を行っていないような場合、当該ユーザー会社にソフトウェアの使用許諾が適用されるのか?

システム会社がソフトウェアをハードウェアにインストールしてユーザー会社に販売するような場合の契約形態としては次のような類型が考えられます。

(1) 直接使用許諾契約が締結される場合(直接ライセンス型)
パッケージソフトウェアのライセンス契約については、ソフトウェア会社がシステム会社にソフトウェアを提供する場合、ソフトウェア会社とシステム会社の間の契約には、次のような条項を設けて対応することが多いようです。

<ソフトウェア会社とシステム会社の間の契約(α契約)>
「システム会社は、ソフトウェア会社の定める使用許諾契約をユーザーに同意させるものとします。」

このようなソフトウェア会社とシステム会社の間の契約に対応する形で、システム会社がユーザー会社との間で締結する契約には、以下のような条項を設けることが多いようです。

<システム会社とユーザー会社の間の契約(β契約)>
「システム会社のシステムに組み込まれている、システム会社が第三者から使用許諾を受けているソフトウェアについては、ユーザー会社は当該第三者の定める使用許諾契約を締結するものとします。」

以上のような契約条項を設けることで、ソフトウェア会社とユーザー会社の間でパッケージソフトウェアの使用許諾契約を締結することが一般的とされています。


(2)間接的に使用許諾契約が成立する場合(サブライセンス型)
ソフトウェア会社がシステム会社を通じて間接的にユーザー会社に使用許諾を与える場合があり、次のような契約条項を設けることがあります。

<ソフトウェア会社とシステム会社の間の契約(α契約)>
「ソフトウェア会社の定める使用許諾条件に従った使用許諾契約に基づき、(システム会社は)ユーザー会社に対してソフトウェアの使用を許諾することができます。」

この場合、ユーザー会社は、システム会社とユーザー会社間のβ契約の使用許諾条件に拘束されることになります。


問題と考え方

上記のような契約条項が整備されていなかった場合で、ユーザー会社がソフトウェアの使用許諾契約を確認して同意する機会がなかったようなケースでは、ライセンス契約の適用について異議が生じる可能性があります。
ただ、システム会社にソフトウェアのインストール作業の代行をしてもらっていると評価できる場合には、ユーザー会社の代理として画面上に表示された使用許諾の同意ボタンをクリックしたものであるから、ユーザー会社は使用許諾に同意したとみなされるケースもありえます。(黙示的な代理権授与行為)

しかし、そうした黙示的な代理権授与によってライセンス契約が成立したと扱う場合でも、ユーザー会社の思惑とライセンス契約の内容に大きな乖離があった場合には紛争が生じるリスクが残ります。
そのような問題を予防するためにも、以下のような対策が必要といえます。

ソフトウェア会社
・「ソフトウェア会社とシステム会社の間の契約条項(α契約)」を整備する。
・直接ライセンス型契約の場合には、ユーザー会社がソフトウェア会社の使用許諾条件を確認できる環境を整備する。

システム会社
・ユーザー会社に提供するシステムに組み込まれるソフトウェアについては、その使用許諾条件をあらかじめ確認する。
・ソフトウェア会社とユーザー会社間の紐付けが可能となるよう、使用許諾契約の締結が必要と思われるソフトウェアの存在を念頭におき、「システム会社とユーザー会社の間の契約条項(β契約)」を整備する。
・ユーザー会社に対して、ソフトウェア会社の使用許諾条件を提供する等、ソフトウェアの使用許諾条件を理解してもらうように努める。

ユーザー会社
・自ら導入するシステムに含まれるソフトウェアの使用許諾契約の各条項を事前に確認する。

ライセンス契約中の不当条項

【論点】
ライセンス契約の条項中、不当なものとして無効と解せられるようなものはどのようなものがあるか?

契約内容は原則として自由に決めることができるものですが、民法90条(公序良俗違反)、消費者契約法第8条~10条(不当条項の禁止)、独占禁止法(競争制限)、著作権法などに抵触する契約条項を設けた場合は、その部分は無効として扱われることがあります。

以下に、ライセンス契約の中で無効とされる可能性がある条項の例を挙げます。ただし、取引の事態や他の契約条項とのバランスも考慮されるので、以下に挙げる例がそのまま全て無効と判断されるわけではありません。

<民法90条(公序良俗違反)とされる契約内容の例>
・ベンダーの契約解除条件を著しく有利とする条項。
・ベンダーが支払う損害賠償金額を著しく低く抑える条項。

<消費者契約法に違反する契約内容の例>
・バグについて一切責任を負わないとする条項。
・バグの補修は全て有償とする条項。
・担保責任期間を著しく短くする条項。

<独占禁止法に違反(競争制限)する契約内容の例>
・競合製品の使用を禁止することにより、市場の公正競争を阻害する条項。
・リバースエンジニアリングを禁止することにより、市場の公正競争を阻害する条項。
※プラットフォーム型のソフトウェアはリバースエンジニアリングを認める必要があるとされていますが、汎用性の低い専門特化したソフトウェアについては禁止できるとの解釈もあります。

<著作権法に違反する契約内容の例>
・著作権法で認められた私的複製やバックアップコピーを完全に禁止する条項。

ライセンス契約の終了時におけるユーザーが負う義務の内容

【論点】
ライセンス契約の解除等により、ライセンス契約が終了した場合には、ユーザーは具体的にどのような義務を負うのか?

ソフトウェアのライセンス契約の終了時としては、(1)契約解除、(2)契約不成立、(3)契約期間の満了の3つのケースがあります。
それぞれのケースで、ユーザーが負う義務について考察します。

(1)ライセンス契約解除のユーザーの義務(原状回復)
ライセンス契約が解除となった場合には、ユーザーにはソフトウェアを使用する権利は認められなくなります。
しかし、ユーザーのコンピュータにソフトウェアがインストールされたままだと、ユーザーが不正使用をする可能性があります。
そこで、民法第545条の原状回復義務として、ユーザーはソフトウェアの記録媒体等を返還する義務が生じます。また、ベンダーはユーザーに対して、コンピュータから該当ソフォトウェアを削除することを請求できるとされています。
(著作権法第47条の3第2項でも、プログラム複製物の所有者がその所有権を失ったときには該当複製物を保存してはならないとの定めがあり、民法の原状回復義務と同様となっています。)

(2)ライセンス契約不成立のユーザーの義務(不当利得返還義務)
ライセンス契約が不成立となった場合には、ユーザーは単にソフトウェアを使用しないだけでなく、ユーザーがコンピュータにソフトウェアをインストールしていれば、それは利得にあたるため、民法第703条の不当利得返還義務により、ベンダーはユーザーに対して該当ソフトウェアの削除を請求することができるとされています。

(3)ライセンス契約満了時のユーザーの義務(契約による定め)
ライセンスの契約期間が満了した場合は、契約の更新をしない限り、ユーザーにはソフトウェアを使用する権利が認められません。
ソフトウェアの使用許諾契約書(ライセンス契約書)で、契約終了後にインストールされたソフトウェアを削除することが定められていれば、ユーザーはその契約内容に拘束され、ソフトウェアの削除義務が生じます。
しかし、使用許諾契約書に契約終了後のソフトウェアの削除について何も記載されていない場合は、ユーザーはソフトウェアの使用はできませんが、ソフトウェアの削除義務は負いません。

ベンダーが負うプログラムの担保責任

【論点】
プログラムにバグがあったため、動作上の不具合が生じたときに、ベンダーはユーザーに対していかなる責任を負うのか?

プログラムのバグに関するベンダーの担保責任は、基本的にはソフトウェア・ライセンス契約の内容に服することになります。

ベンダーとユーザーがどちらも事業者の場合は、BtoB型の商行為の取引となるので、ソフトウェア・ライセンス契約の特約が優先適用されます。

しかし、ユーザーが一般消費者の場合はBtoC型の消費者契約となるため、消費者契約法の第8条~10条により、民法等と比較して消費者が一方的に不利になる(ソフトウェア・ライセンス契約の)特約は無効とされる場合があります。
例えば、瑕疵担保責任はバグの発見から1年間(民法第566条3項)、債務不履行責任は債務の履行を請求できるときから5年間(商法第522条)とされていますが、これと比較して著しく消費者に不利となる特約の内容は無効と判断される可能性があります。

ライセンス契約のバグの担保責任に関する特約が定めてなかったり、特約が無効とされるケースでは、民法によってベンダーの担保責任を考えることになります。

民法上では、瑕疵(バグ)のあるプログラムを提供したベンダーには問題を解決する責任が生じ、瑕疵担保責任か債務不履行責任(民法第415条)のいずれかが問われます。
なお、瑕疵担保責任には売買の場合(民法第570条)と請負の場合(民法第634条)で参照する条文が異なります。

<瑕疵担保責任が適用される場合>
ユーザーはベンダーに対して、ア)契約解除、イ)損害賠償、ウ)瑕疵修補請求のいずれかを請求することができます。
しかし、契約解除は契約目的が達することができないときに限定されます。また、損害賠償請求についても、ソフトウェアは修正プログラム等で修正することが容易であるという特徴があり、そのような状態においてベンダーの修補対策を拒んで損害賠償請求を行うことは信義則上も認められません。
よって、バグの瑕疵担保責任については、ベンダーによる修正プログラムのリリース等の瑕疵修補の対策が優先されます。

<債務不履行責任が適用される場合>
ユーザーはベンダーに対して、ア)契約解除、イ)損害賠償、ウ)完全履行のいずれかを請求することができます。
契約解除については、ベンダーに対して相当の期間を定めて催告し、これに対してベンダーがその期間内にプログラムの修補もしくは代物提供をした場合には、契約解除は出来ないとされています。
損害賠償については、前述のように修正プログラム等で修正することが容易であるという特徴があり、そのような状態においてベンダーの修補対策を拒んで損害賠償請求を行うことは信義則上も認められません。
完全履行については、民法第415条から修補請求もしくは代物請求が可能とされています。
よって、バグの債務不履行責任については、ベンダーへの修補請求もしくは代物請求が優先されます。

SaaS・ASPのためのSLA(ServiceLevelAgreement)

【論点】
CRM(Customer Relationship Management)・SFA(Sales Force Automation)・会計サービスなどのSaaS(Software as a Service)やASP(Application Service Provider)を利用したソフトウェアの取引にあたり、事前に当事者間のSLA(Service Level Agreement)を定めておくことが未然にトラブルを防止するために重要であるといわれているが、その位置づけはどのように考えればよいか?

※SaaS(Software as a Service)とは、「ユーザーがソフトウェア提供を受ける場合に、必要な機能のみを選択して利用できるようにしたソフトウェア」。

※ASP(Application Service Provider)とは、「アプリケーションソフトの機能をネットワーク経由で顧客にサービスとして提供するもの」。

SaaSやASPの利用規約において、サービスレベルを定めるSLA(Service Level Agreement)については、その内容を義務規定とするか努力目標とするかを個々に検討する必要があります。
義務規定とした場合には、顧客に対して強くアピールできますが、サービスレベルを達成できなければ事業者の債務不履行責任(民法第415条)が発生します。
努力目標とした場合には、サービスレベル不達成でも事業者の債務不履行責任を回避できる可能性がありますが、顧客のへのアピール度は低下します。

また、事業者にとってリスクが想定される事項については、免責条項や損害賠償額の上限を設けることも必要といえるでしょう。
しかし、BtoC型の消費者契約では消費者契約法の適用を受けるので、このような事業者の免責規定をおいても、その全てが有効となるわけではありません。
(BtoB型の事業者間取引では、利用規約内の特約が優先されるので、こうした免責規定は有効に作用する可能性が高いです。)

<SLAで定めておくことが望ましい項目>

(1)前提条件
サービスを利用する上で必要な通信環境やハードウェアのスペック、OSの種類等のユーザーが用意するべき前提条件を明示する必要があります。

(2)可用性
サービスの提供時間や稼働率などを予め明示しておく必要があります。保守管理のためにサービスを停止することがあれば、その条件等を明示します。

(3)信頼性
システム障害が発生した場合に、復旧に要する時間や対応方法について定めておきます。

(4)性能
システムの応答時間やサービスの処理に要する時間等を明らかにするのが望ましいとされています。

(5)サポート体制
ユーザーサポートの提供方法、提供時間等を明らかにするのが望ましいとされています。

(6)データ管理
データのバックアップ体制の有無について定めておく必要があります。バックアップを事業者の義務と定めた場合は、データ滅失が起こった場合の損害賠償リスクが生じます。

(7)セキュリティ
個人情報の取り扱いやウィルス対策・不正アクセス対策など、セキュリティに関する管理体制や免責事項などを定めておく必要があります。

ソフトウェアの使用許諾が及ぶ人的範囲

【論点】
ソフトウェアライセンス契約において、特定のユーザー(ライセンシー)に限定して使用が許諾されている場合に、ソフトウェアライセンス契約に基づくソフトウェアの使用許諾は、当該企業の従業員その他のいかなる者が、いかなる態様で使用する場合にまで及ぶことになるのか?

ソフトウェアを実際に使用するユーザーに対する人的な帰属形態(ユーザー企業とその従業員など)、ソフトウェアの使用目的、その他の事情を総合的に考慮して、当該ソフトウェアの使用が正規ユーザー自身による使用と認められる場合には、そのソフトウェアの使用許諾(ライセンス契約)が及ぶものと考えられます。
逆に、これらの事情を考慮しても、正規ユーザーによるソフトウェアの使用であると認められない場合には使用許諾は及ばず、不正利用の問題となります。

(1)正規ユーザーが、第三者を委託者、当該ユーザーを受託者とするソフトウェア開発契約を締結した上で、ユーザー従業員を当該第三者社内に常駐させて開発業務に従事させた場合。このケースでの当該ユーザーの従業員には使用許諾が及ぶのか?

正規ユーザーの従業員は、当該ユーザーの業務のために当該ソフトウェアを使用しているのだから、社外(=第三者の社内)での使用であっても、社内の業務の延長線上であると評価できます。よって、このケースでは使用許諾は及ぶものと考えられます。

(2)正規ユーザーの社内で、ユーザーの業務に従事する派遣社員には使用許諾は及ぶのか?

派遣社員については、ユーザーの従業員とその職務の実態において違いは無いので、ユーザーが使用するのと同等と評価できます。よって、このケースでは使用許諾は及ぶものと考えられます。

(3)第三者からソフトウェア開発を元請として受託した正規ユーザーが、当該ユーザーを再委託者、ソフトウェアベンダーを再受託者として、当該ソフトウェア開発を再委託した上で、当該ソフトウェアベンダーの従業員をユーザー社内に常駐させて、ソフトウェア開発業務に従事させた場合のソフトウェアベンダーの従業員に使用許諾は及ぶのか?

ソフトウェア開発をする正規ユーザーが、人手不足を補うためにソフトウェアベンダーと開発の委託契約を締結したという事情がある場合には、ソフトウェアベンダーの従業員はユーザーの業務に従事していると評価ができるので、使用許諾は及ぶものと考えられます。

これに対して、ソフトウェアベンダーの従業員を正規ユーザーの社内に常駐させているものの、独立した就業場所および就業形態で稼動させている場合には、使用許諾は認められないとされることが多いと考えられます。

(4)正規ユーザーの取引先の従業員には使用許諾は及ぶのか?

取引先の従業員が、当該取引先企業の業務目的でソフトウェアを使用する場合には、例え正規ユーザー社内での使用であっても、使用許諾が及ぶものではありません。

 

ユーザーの知的財産権譲受人への対抗

【論点】
ソフトウェア等の情報財の知的財産権(著作権、特許権)を有するベンダー(ライセンサー)から第三者に知的財産権の譲渡がされた場合、もしくはベンダーが倒産した場合、ライセンスの許諾を受けていたユーザーは当該情報財の使用を継続することができるか?

<情報財に関する知的財産権が第三者に譲渡された場合>
知的財産権の譲渡人と譲受人の間で、情報財のライセンサーとしての地位を移転する契約がなされた場合は、ユーザー(ライセンシー)は通常は引き続き情報財の使用ができます。
なお、この場合、仮に年度ごとにライセンス料が支払われるようなときには、(1)「三者間で譲渡契約を締結する」、(2)「旧ライセンサーからユーザーに対して、ライセンス料債権を新ライセンサーに譲渡した旨を通知する」、(3)「ライセンス料債権の譲渡についてユーザーが新もしくは旧のライセンサーに承諾する」のいずれかの手続が必要となります。

知的財産権の譲渡人と譲受人の間で、知的財産権のみが譲渡される契約がなされた場合は、以下のとおりとなります。

(ア)著作権が譲渡された場合
著作権が及ぶ形で情報財を利用する場合には、譲受人の著作権を侵害することになるので、情報財の使用を継続することはできなくなります。
ただし、情報財を単に視聴するなど著作物に改変を加えない使用行為や私的複製(著作権法第30条1項)など、譲受人の著作権が及ばない形であればユーザーは情報財の使用が継続できます。

(イ)特許権が譲渡された場合
ユーザーは自己の通常実施権発生後の当該特許権や実用新案権の譲受人に対し、自己の通常実施権を対抗できるので(特許法第99条)、ユーザーは情報財の使用を継続できます。
ただし、譲渡人とユーザーの間の契約内容がそのまま譲受人に引き継がれるか否かは不明確なので、使用条件について紛争化するリスクはあります。
そこで、情報財のライセンス使用許諾の契約をするに際しては、ライセンサーが当該情報財の特許権を有している場合は、その特許権に担保設定をするか承継禁止特約を結ぶなどの検討が必要といえるでしょう。

<ベンダー(ライセンサー)が倒産した場合>
(ア)著作権の場合
管財人によってライセンス契約が解除される可能性があり、その場合はユーザーは情報財の使用ができなくなります。
しかし、一般的なパッケージ・ソフトウェアのように最初に対価を支払えば以降の使用対価を支払う必要の無いような情報財のライセンス契約については、通常は解除されることはない場合が多いようです。

(イ)特許権の場合
ユーザーは自己の通常実施権発生後の当該特許権や実用新案権の譲受人に対し、自己の通常実施権を対抗できるので(特許法第99条)、ユーザーは情報財の使用を継続できます。

ソフトウェア特許権の行使と権利濫用

【論点】
ソフトウェアに係る特許権の行使(差止請求、損害賠償請求等)に対して、民法第1条3項(権利濫用の禁止)は適用されるか?

ソフトウェアの特許権の行使に関して、以下のような権利行使があれば権利濫用(のため禁止)と判断される可能性があります。

(ア)権利行使者の主観において加害意思等の悪質性が認められる場合。
(イ)権利行使の態様において権利行使の相手方に対して不当に不利益を被らせる等の悪質性が認められる場合。
(ウ)権利行使により権利行使者が得る利益と比較して著しく大きな不利益を権利行使の相手方及び社会に対して与える場合。

上記の(ア)(イ)は「権利主張の正当性・悪質性の評価分析」によります。(ウ)は「権利行使を認める場合と認めない場合の利益と不利益の比較考量」によります。
これらを総合的に検討し、特許権の権利主張が正当であるか権利濫用にあたるのかを判断することになります。

例えば、「特許権者が権利行使の相手方に対して通常の事業者にとって受忍することができないライセンス契約の条件を強要し、権利行使の相手方が許容できない場合に、その権利行使の相手方に差止請求するなど、特許法の目的である発明の奨励・産業の発達を逸脱し、
相手方に一方的に不利益を押し付ける場合」などは正当性・悪質性の評価分析により権利濫用にあたる可能性が高くなります。
また、「当該特許によって保護される機能がOSやミドルウェア等のプラットフォームとなるソフトウェアの機能である場合、当該機能なくしては当該ソフトウェアのみならず、他のソフトウェアやハードウェアが動作せず、権利行使の相手方や社会全般に大きな不利益が生じる場合」などは利益・不利益の比較考量により権利濫用と判断される可能性があります。

ソフトウェアに関する特許権侵害が生じた場合には、権利者は相手方に対して「差止請求・損害賠償請求・不当利得返還請求・信頼回復措置請求」などの権利行使が可能とされています。
しかし、この権利行使が前述のような権利濫用にあたる場合には、相手方は権利者に対して抗弁を行い、差止請求権等の請求権について不存在確認訴訟を検討することができます。

使用機能、使用期間が制限されたソフトウェアの制限の解除方法を提供した場合の責任

【論点】
アプリケーション・ソフトウェアやシェアウェアの体験版に付加されている制限(機能制限、利用期間制限等)について、不正に解除する手段をインターネット上に提供する行為に対して、どのような制限があるか?

(1)制限解除に必要なシリアルデータを提供する場合
製品版における制限解除の条件が固定のシリアルデータの入力であるソフトウェアの場合に、ソフトウェア使用許諾契約において第三者にシリアルデータを提供しないことが定められている状態で、該当シリアルデータをインターネット等で提供をすると契約違反(債務不履行)の責任を負います。

(2)制限解除に必要なシリアルデータを計算するキー・ジェネレーターを提供する場合
シリアルデータを生成するプログラム(キー・ジェネレーター)をインターネット上で提供することでソフトウェアの制限解除を行うシステムの場合に、ソフトウェア使用許諾契約において第三者にキー・ジェネレーターを提供しないことが定められている状態で、キー・ジェネレーターをインターネット等で提供をすると契約違反(債務不履行)の責任を負います。

(3)期間制限のある体験版に、擬似日時情報を与えることにより期間制限を解除する擬似情報発生プログラムを提供する場合
偽の日時データを正規の日時であるようにソフトウェアに付与することのできる擬似情報発生プログラムをインターネット上で提供する行為は、ソフトウェア使用許諾契約において第三者に擬似情報発生プログラムを提供しないことが定められている状態であれば、該当行為者は契約違反(債務不履行)の責任を負います。

(4)製品版であることが記録されているレジストリ等のデータの改変情報を提供する場合
ソフトウェアの設定データが記録されているレジストリ情報等を解析して、制限版を製品版に改変する情報をインターネット上等で提供する行為は、ソトウェア使用許諾契約において第三者にレジストリ改変情報等を提供しないことが定められている状態であれば、該当行為者は契約違反(債務不履行)の責任を負います。

(5)製品版か否かを判別する処理ルーチンを改変した擬似完全版を提供する場合
擬似完成版をインターネット上で提供する行為は、著作権法上、複製権侵害、公衆送信権侵害となり、刑法および民法上の責任を負います。また、製品版を改変して擬似完成版を作成する行為は著作者人格権侵害にもあたります。
ソトウェア使用許諾契約において第三者に擬似完成版を提供しないことが定められている状態であれば、該当行為者は契約違反(債務不履行)の責任も負います。

(6)製品版か否かを判別する処理ルーチンを改変するクラック・パッチを提供する場合
クラック・パッチをインターネット上で提供する行為は、複製権等の侵害を惹起したものとして、刑事および民事上の責任を負います。
ソトウェア使用許諾契約において第三者にクラック・パッチを提供しないことが定められている状態であれば、該当行為者は契約違反(債務不履行)の責任も負います。

(7)製品版か否かを判別する処理ルーチンを改変するために必要なバイナリー変更情報を提供する場合
バイナリー変更情報をインターネット上で提供する行為は、複製権等の侵害を惹起したものとして、刑事および民事上の責任を負います。
ソトウェア使用許諾契約において第三者にバイナリー変更情報を提供しないことが定められている状態であれば、該当行為者は契約違反(債務不履行)の責任も負います。

以上の(1)~(7)の全てケースでは、不法行為にも該当し、これらの行為をした者は損害賠償責任を負う可能性もあります。

データベースから取り出された情報・データの扱い

【論点】
インターネット等のオンラインやCD-ROM等のパッケージによって提供されたデータベースから情報やデータを取り出して、これを第三者に提供するなどの利用行為について、何らかの法的な制限があるか?

ここでのデータベースとは、(ア)特定のテーマに基づいて、データを体系的に整理又は整理のつく状態で保存し、(イ)データの集まりの中から必要なものだけを指定して、情報としての部分データとして取り出せ、(ウ)コンピュータ機能を備えている情報端末機器で検索可能な形態になっているものを指します。

データベースから取り出された個々の情報・データ自体に著作物性が認められる場合、それぞれが著作物として保護されます。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの であって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条1項1号)」とされています。
データベースに著作物性が認められる場合には、権利者の許諾無く個々のデータを利用する行為(複製、譲渡、公衆送信又は公衆送信可能化等)は著作権侵害となり、損害賠償責任(民法第709条)、差止請求(著作権法第112条)、刑事責任(著作権法第119条)の可能性があります。
ただし、複製が私的使用目的の場合は著作権侵害には該当しません(著作権法第30条1項)。

データベースから取り出された個々の情報・データが、例えば、電車の時刻、山の名前と標高、株価データ等の単なる事実である場合は、著作物に該当せず、原則として自由に利用することができます。
ただし、多数のデータがある程度まとまって取り出されたケースであって、(1)創作性を有するデータベースから取り出されたデータ集合体に創作性が再現されている場合と、(2)元のデータベースに創作性が認められないものの、取り出されたデータ集合体が元のデータベースの営業活動を侵害する場合は、法的な制限を受けることがあります。

(1)創作性を有するデータベースから取り出されたデータ集合体に創作性が再現されている場合
著作権法は、データベースのうち、論文、数値、図形、その他情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したものであって、その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものを著作物として保護しています(著作権法第2条1項10号、第12条の2)。
例えば、NTTタウンページのデータベースは職業分類体系によって分類されており、創作性があるとされた判例が存在します(東京地裁平成12年3月17日判決・判時1714号128頁)。

(2)元のデータベースに創作性が認められないものの、取り出されたデータ集合体が元のデータベースの営業活動を侵害する場合
創作性を有しないデータベースからデータ集合体を作成した場合について、(a)元のデーターベースが相当の資本を投下して作成されたなど経済的価値を有するものであり、(b)営業活動に用いられている場合であって、(c)当該データ集合体を販売する等の行為が元のデータベースの営業活動を侵害する場合には、不法行為として損害賠償責任を負うものと解せられています。
ただし、この場合でもデータ集合体の複製等の行為については、差止請求は認められないと解せられています(東京地裁平成14年3月28日判決判タ1104号)。

また、データベース提供者とユーザーの間でデータベース利用条件についての契約が成立している場合、ユーザーの契約外での利用行為については債務不履行責任(民法第415条)を追及できるものと考えられます。

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